本の紹介

大事なことほど小声でささやく


スポーツジムを中心にした人間模様である。主な登場人物は6人で、それぞれの視点から各自の人生が語られていく。
45歳の贅肉のついた体のサラリーマンの話。25歳の、男性名義で少年漫画雑誌に連載を持つ女性漫画家の話、童貞で紙ヒコーキを作るのが趣味の16歳高校生の話、ジムでは明るくふるまっているが、実は3年前に5歳の娘を病気でなくしている歯科医の話、69歳の広告会社の社長の話、スナックを経営するオカマの話。
笑あり涙ありの悲喜交交なオムニバス短編集。
この中に出てくる「スナックひばり」のような癒しの場所や、同じ趣味で交流ができるスポーツジムなどの場所があると、人はとても助かる。非日常体験ができることで、心が安らぎ解放される。今世の中は新型コロナの影響でこういった場所に生き難い。
今は我慢しなくてはいけない時期なのだと思う。
だから、この物語の中で、くだらないオヤジギャグに笑ったり、感動的なシーンに心ウルウルさせたり、その体験は貴重だった。
森沢明夫さんの小説は、これで2冊目。
「虹の岬の喫茶店」で深い感動を覚え、この本を続けて読んだ。
どちらもいい。
読みやすいことがいい。
日常の隙間時間にパラリと開き読み出してもすぐに夢中になれる。
そして、読み終わると、なんだか、体の芯に温かいものが流れる。
人生に希望が湧いてくる小説だと思う。
いい本です。